ブラジルの裁判所

ブラジルの裁判所の構成は日本と違って乱暴に言えば四審制である。連邦の裁判所と州の裁判所があって、連邦の裁判所にはそれぞれ労働、選挙、軍事を管轄とする労働裁判所、選挙裁判所、軍事裁判所が存在する。

連邦最高裁判所は11名の裁判官で構成され、全員参加の大法廷と長官を除く5名ずつで構成される2つの小法廷がある。外国判決の承認や連邦法の解釈の統一などの役割を連邦司法高等裁判所が担うことによって負担の軽減が図られているものの、国会議員を当事者とする普通犯罪については連邦最高裁判所が原審として審理することになっている上、ブラジルでは2014年以降の大規模な汚職捜査によって多数の国会議員が刑事事件の当事者になっているため連邦最高裁判所はほぼ麻痺している。

ブラジルの第一審裁判所は単独の裁判官で構成されているため「裁判官」と呼ばれている。第二審以降は合議体で構成され、審理だけでなく評議も公開されているところに特色がある。日本の裁判所は評議の秘密(裁判所法75条)を守らなければならないと定め、その趣旨は裁判官の自由な意見の確保することなどと説明される。しかし、汚職や脅迫が多く裁判官の自由な意見の確保が一層困難であるはずのブラジルの裁判所でむしろ評議を公開していることは示唆に富む。連邦最高裁判所の評議内容は専門チャンネルでテレビ中継され、裁判官同士が激しい口調でやりあう場面もそのまま放送される。

第四審
連邦最高裁判所(Supremo Tribunal Federal – STF)

第三審
連邦司法高等裁判所(Superior Tribunal de Justiça – STJ)
連邦労働高等裁判所(Tribunal Superior do Trabalho – TST)
連邦選挙高等裁判所(Tribunal Superior Eleitoral – TSE)
連邦軍事高等裁判所(Superior Tribunal Militar – STM)

第二審
連邦地域裁判所(Tribunal Regional Federal – TRF)
連邦労働地域裁判所(Tribunal Regional do Trabalho – TRT)
連邦選挙地域裁判所(Tribunal Regional Eleitoral – TRE)
連邦軍事査問委員会(Conselho de Justiça Militar – CJM)

第一審
連邦裁判官(Juiz Federal – JF)
労働裁判官(Juiz Trabalho – JT)
選挙裁判官(Juiz Eleitoral – JE)
軍事査問官(Juiz Auditor – JA)

州裁判所の構成は各州憲法で定めることになっているものの、第二審の州司法裁判所(Tribunal de Justiça – TJ)と第一審の州裁判官(Juiz de Direito – JD)が存在する。州裁判所の事件の第三審は連邦司法高等裁判所である。また州の軍事裁判所の第一審は軍法会議で、第二審は州軍事裁判所が置かれている場合と、州司法裁判所がその役割を果たしている場合がある。

上記に加えて、小規模かつ簡易な事件を処理するための簡易裁判所(Juizado Especial)が設置されている。州簡易裁判所(Juizados Especiais Estaduais)には少額民事事件を処理する州民事簡易裁判所(Juizados Especiais Cíveis -JECs)、簡易な刑事事件を処理する州刑事簡易裁判所(Juizados Especiais Criminais – JECrim)、州や市の利益にかかわる少額民事事件を処理する州公共財務簡易裁判所(Juizados Especiais Fazendários)がある。また、連邦の利益にかかわる少額民事事件を処理する連邦簡易裁判所(Juizados Especiais Federais – JEFs)も設けられている。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya