連邦最高裁判所による取調べを目的とした強制引致の禁止

ブラジル連邦最高裁判所は、2018年6月18日、6対5で取調べを目的とした強制引致(condução coercitiva)を禁じる判断を下した。強制引致というのは裁判所の令状に基づいて警察が刑事手続のために被疑者又は被告人を強制連行する処分である(STF proíbe condução coercitiva de réus e investigados para depoimento)。1941年ブラジル刑事訴訟法第260条は次のように定めている。

Art. 260. Se o acusado não atender à intimação para o interrogatório, reconhecimento ou qualquer outro ato que, sem ele, não possa ser realizado, a autoridade poderá mandar conduzi-lo à sua presença.
犯罪の嫌疑をかけられた者が取調べ、人定又は本人がいなければ行うことができないその他の処分のためになされた召喚に応じない場合、司法官憲はその出席のための連行を命じることができる。
Parágrafo único. O mandado conterá, além da ordem de condução, os requisitos mencionados no art. 352, no que Ihe for aplicável.
補項 令状には引致命令のほか、第352条が求める事項のうち記載可能な事項を含む。
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Art. 352. O mandado de citação indicará:
第352条 召喚令状は以下を明示する。
I – o nome do juiz;
一号 裁判官名。
II – o nome do querelante nas ações iniciadas por queixa;
二号 その申立てによって起訴がなされた告発人の名前。
III – o nome do réu, ou, se for desconhecido, os seus sinais característicos;
三号 被告人の名前。氏名不詳の場合はその特定の手掛り。
IV – a residência do réu, se for conhecida;
四号 判明している場合は被告人の住居。
V – o fim para que é feita a citação;
五号 召喚の目的。
VI – o juízo e o lugar, o dia e a hora em que o réu deverá comparecer;
六号 被告人が出頭すべき日時、裁判所及びその場所。
VII – a subscrição do escrivão e a rubrica do juiz.
七号 書記官の署名及び裁判官の略式署名。

今回の判断に先立って、2017年12月19日、連邦最高裁判所のジルマール・メンデス判事によって取調べを目的とした強制引致を禁じる仮処分が出されていた(Gilmar Mendes decide proibir a condução coercitiva para interrogatórios)。この手法は2014年に始まった汚職捜査ラバジャット作戦で多用されていて、連邦検察庁によればメンデス判事の仮処分までにラバジャット作戦で強制引致が行われた回数は実に222回に及ぶ。

ラバジャット作戦で行われた一連の強制引致の中でも2016年3月4日のルーラ元大統領に対する強制引致は大きな注目を集めた。この日の朝6時、強制引致令状を携えた連邦警察はサンベルナードカンポ市にあるルーラ元大統領の自宅を急襲し、 元大統領をコンゴーニャス空港の大統領特別室に引致して取調べを行った。引致される際に逮捕を恐れた大統領が

「クリチバの日本人は連れて来なかったのか?(Não trouxeram o japonês de Curitiba?)」

と述べて、多くの政治家を逮捕して国民的英雄として人気が爆発し、同年2月のカーニバルの時期にサンパウロで最も多くのマスクが売られ、オリンダのカーニバルではモーロ判事と並んで巨大な人形も作られたクリチバの連邦警察官ニュートン・イシイ氏に言及した場面はラバジャットを描いた映画「連邦警察 法は全ての人のために」でも取り上げられて強烈な印象を与えた。

連邦最高裁判所の審理はルーラ元大統領が所属する労働党(PT)とブラジル弁護士会(OAB)によって申し立てられた2つの違憲訴訟に基づいて行われた。

違憲訴訟の理由であり、今回の判断において判事たちも言及したように、ブラジル憲法第5条六三号の規定は黙秘権の保障を前提としている。

LXIII – o preso será informado de seus direitos, entre os quais o de permanecer calado, sendo-lhe assegurada a assistência da família e de advogado;
六三号 被拘禁者は黙秘権を含む権利の告知を受け、家族及び弁護人による援助が保障される。

確かに被拘禁者の黙秘権が保障されているにも関わらず本人がいなければ取調べができないとして強制引致が認められていたのは日本の取調べ受忍義務に関する議論にも通じる論理矛盾で、その意味でも今回の連邦最高裁判所の判断は興味深い。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya

民事簡易裁判所

先日ブラジルに20年近く暮らす日本人にブラジルの裁判件数が非常に多いという話をしたところ、

「俺も3回くらい裁判したことがありますよ。弁護士に依頼してしたこともあります。去年したのはパソコンのアダプターが壊れて、電気屋に行ったら店に同じタイプがなくて店のやつがタコ足になったタイプのアダプターを勧めてきたんですね。これでも大丈夫だからって。それで、使えなかったら返すぞって話して100レアル(3000円程度)で買って帰ったんですけど、使えなかったんですよ。で、返品しにいったら、返品させないって言いやがったんです。頭に来て訴えるぞ!って言ってやったらやってみろって言うんで、ペッケーナスカウザスっていう裁判所に行って手続したら、相手はちゃんと期日に来ましたよ。何か月かかかりましたけど。ビビっちゃってて、すぐに払うとか言うんで、ほれみろーって言ってやってね」

という話を聞いた。ペッケーナスカウザスというのはブラジルの民事簡易裁判所(Juizado Especial Cível)のことだ。話を聞いた人はサンパウロに暮らす人ではないが、サンパウロの場合はサンタクルス駅の近くに民事簡易裁判所がある。裁判所には研修中の法学部の学生と指導教授がいて、事件内容を告げると申立書を書いてくれる。それをそのまま提出すると数ヶ月後に期日が開かれ、調停手続が行われる。ただし、相手方が出頭しなければ執行力のある判決も出るようだ。こういったシステムは日本の簡易裁判所や調停手続を参考にして作られたようだが、司法の活動が活発なブラジルだけに、日本で行われている以上に市民生活の役に立っているように思える。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya

騒音を伴う花火の販売及び使用を禁止するサンパウロ市市郡法の成立とその差止め

2018年5月23日、Change.orgで7万3000人の賛同を得たサンパウロ市内における騒音を伴う花火の販売及び使用を禁止する市郡法がサンパウロ市議会及び市長の承認を得て成立した(Lei nº 16.897, de 23 de maio de 2018)。賛同した人々は花火の音に驚いた子どもが痙攣を起こすと報告していて、この運動のリーダーのロゲリオ・ナガイさんは自閉症児の権利保護を行うグループと動物保護を行うグループのスポークスマンだ(Lei que proíbe rojões com estouro em SP é sancionada após petição)。

サンパウロにはサッカーの試合があるたびにそこここで花火を打ち上げる人がいて、ワールドカップを控えて各所でかなりの花火が打ち上げられることが予想されていた。

しかしこの市郡法に対し、ミナスジェライス州爆発物工業組合(SindiEMG)が違憲直接訴訟を提起した(Liminar libera queima de fogos de artifício com barulho em SP)。その理由はサンパウロ市市郡法が花火に関する連邦法及び州法に違反しているというものだった。ミナスジェライス州爆発物工業組合が違憲直接訴訟を提起する権限を有することはサンパウロ州憲法第90条に定められている。

Artigo 90 – São partes legítimas para propor ação de inconstitucionalidade de lei ou ato normativo estaduais ou municipais, contestados em face desta Constituição ou por omissão de medida necessária para tornar efetiva norma ou princípio desta Constituição, no âmbito de seu interesse:
第90条 以下は、その利益の及ぶ範囲において、本憲法に違反し又は本憲法の規律又は原理を有効ならしめるために必要な措置を怠ったことによって、州又は市郡の法律又は規範行為の違憲訴訟を提起する当事者適格を有する。
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V – as entidades sindicais ou de classe, de atuação estadual ou municipal, demonstrando seu interesse jurídico no caso;
五号 当該事件について法律上の利益を有することを疎明した州又は市郡で活動する組合又は階級団体。

この申し立てはサンパウロ州高等裁判所(TJSP)に対して行われた。この裁判管轄に関する規定はサンパウロ州憲法第74条に置かれている。

Artigo 74 – Compete ao Tribunal de Justiça, além das atribuições previstas nesta Constituição, processar e julgar originariamente:
第74条 本憲法に定められた権限のほか、以下を原審として審理及び判決することは州高等裁判所の権限である。
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VI – a representação de inconstitucionalidade de lei ou ato normativo estadual ou municipal, contestados em face desta Constituição, o pedido de intervenção em Município e ação de inconstitucionalidade por omissão, em face de preceito desta Constituição;
六号 本憲法に違反する州又は市郡の法律又は規範行為の違憲の訴え、本憲法の規定による市郡への介入の申立て及び不作為による違憲訴訟。
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XI – a representação de inconstitucionalidade de lei ou ato normativo municipal, contestados em face da Constituição Federal.
一一号 連邦憲法に違反する市郡の法律又は規範行為の違憲の訴え。

そして、6月8日に本条例はサンパウロ州高等裁判所のボレッリ・トマズ判事の仮処分によって停止された。

こういった議会と裁判所の攻防を見るのは初めてではない。2015年にもスーパーで顧客にビニール袋を渡す際に課金することを義務付けるサンパウロ市市郡法を巡って議会と裁判所の判断が割れ、度々ルールが変わったことがあった。こういった生活の変化に直結する裁判所の判断はブラジルの司法制度のダイナミックさを改めて実感させる。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya