ブラジルの勾留質問手続

もう一昨年の2018年12月の話であるが、T裁判官の好意でバハフンダの刑事裁判所の勾留質問(AUDIÊNCIA DE CUSTÓDIA)手続を見学させて頂いた。管轄内で午前中に逮捕された者はその日の午後に、午後に逮捕された者は翌日の午前中にこの裁判所に連れてこられて裁判官の面前で勾留質問を受ける。ブラジルの勾留(Prisão preventiva)は直訳すると予防拘禁で、日本と違ってその名の通り他の犯罪が行われることを予防するための身体拘束である。勾留質問手続は裁判官のほか、検察官と弁護士が立ち会って行われる。裁判官は人定事項のほかに逮捕時の暴行の有無、同居人や養育費の支払い状況を確認する。検察官は補充質問で前科を確認する。弁護士は概ねその日の当番の公共弁護庁の国選弁護官が担当し、時折私選弁護人を付けている人もいる。途中逮捕時に警察官による暴行があったと主張する人がいて、裁判官によって身体検査(Exame de corpo de delito)が命じられた。辞書にはCorpo de delitoの意味は罪体と書いてあるし、罪体を意味するラテン語はcorpus delictiだ。Exame de corpo de delitoを直訳すると罪体検査となるので、てっきり勾留理由開示のことかと思っていた。しかし、Corpo de delitoの意味は罪体でもExame de corpo de delitとなると捜査官による被逮捕者への暴行の有無を調べる鑑定医による身体検査を意味するようだ。実際に手続を見せてもらってから裁判官の説明を聞いて非常に良く分かった。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya

Porta dos Fundosのクリスマス特別動画と表現の自由を巡る騒動

ブラジルではNetflixがよく物議を醸しているが、これに新しい事件が加わった。昨年末にNetflixはYouTubeに短編コメディ動画を投稿しているPorta dos Fundosのクリスマス特別動画を公開した。その内容はイエス・キリストがゲイだったというものだった。Associação Centro Dom Bosco de Fé e Culturaというキリスト教団体がこの動画の公開停止の仮処分を求め、リオ・デ・ジャネイロ州民事裁判所第16法廷のAdriana Sucena Monteiro Jara Moura判事が12月19日にこれを却下した(Justiça nega retirada de filme blasfemo da Netflix)。クリスマスイブの早朝にはPorta dos Fundosのプロダクションが2本の火炎瓶による襲撃を受けた(Funcionário do Porta dos Fundos usa extintor para apagar fogo após ataque à produtora; VÍDEO)。幸いなことにけが人はなく、逃亡した犯人はモスクワで検挙された(Suspeito de atacar Porta dos Fundos diz à Justiça que chega dia 30 de Moscou)。年が明けた2020年1月8日には仮処分事件の第二審を審議していたリオ・デ・ジャネイロ州高等裁判所民事第6部のBenedicto Abicair判事が第一審の判断を覆してNetflixに動画の公開停止を命じた(Desembargador do TJ-RJ censura especial de Natal do Porta dos Fundos)。この判断にNetflixは不服を申し立て、翌日9日に連邦最高裁判所のディアス・トフォリ長官によって州高裁の仮処分は取り消された(STF libera Netflix para exibir especial de Natal do Porta dos Fundos)。この事件はブラジルに表現の自由に関する大論争を巻き起こした(Filme do Porta dos Fundos causa polêmica ao ridicularizar personagens bíblicos)。

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya

在日ブラジル人の推移

 以下は法務省の統計から抜粋した1985年から2021年末までの在日ブラジル人の推移である。 

在日ブラジル人数 増減
1985 2000  
1986 2135 135
1987 2250 115
1988 4159 1909
1989 14528 10369
1990 56429 41901
1991 119333 62904
1992 147803 28470
1993 154650 6847
1994 159619 4969
1995 176440 16810
1996 201795 25355
1997 233254 31459
1998 222217 -11037
1999 224299 2082
2000 254394 30095
2001 265962 11568
2002 268332 2370
2003 274700 6068
2004 286557 11857
2005 302080 15523
2006 312979 10899
2007 313771 792
2008 309448 -4323
2009 264649 -44799
2010 228702 -35947
2011 209265 -19437
2012 190609 -18656
2013 181317 -9292
2014 175410 -5907
2015 173437 -1973
2016 180923 7486
2017 191362 10439
2018 201865 11865
2019 21万1677 9815
2020 20万8538 -3139
2021 20万4879 -3659

 この表の起点である1985年はちょうどブラジルが移民受入国から移民送出国に転換した時期にあたる。サンパウロのグアリューリョス国際空港もこの年に開港した。当時の在日ブラジル人はわずか2000人ほどで、領事館の職員、留学生、企業の駐在員及びその家族によって構成されていた。その後、バブルに向かって日本の景気が過熱し、企業の採用担当者は南米の日本人移民に対しても採用活動を行った。その結果ブラジルに暮らす日本国籍保有者が日本に帰国して就労する例が増加した。ブラジルの側は軍政時代の末期で、徐々に治安は悪化し、経済の状況も良くなかった。当初は日本に来るブラジル人は就労のために日本に帰国した日本人移民の配偶者が中心であったものの、やがてブラジル国籍しか持っていないブラジル生まれの日系2世や3世も先に帰国就労した日本国籍保有者の誘いを受けて来日就労するようになった。こうしたブラジル国籍者に対しては親族訪問を名目にした法務大臣の特例ビザが発給された。こうして在日ブラジル人の数は1989年末までに1万4528人まで増加した。

 1990年には親族訪問を目的とした特例ビザを制度化した「定住者」の在留資格が創設された。この時期のブラジルは年率3000パーセント近いハイパーインフレになった。インフレを沈静化するために預金封鎖なども行われ、多くの企業が倒産し、経済は最悪の状況であった。その結果1990年と翌1991年の2年間でおよそ10万人のブラジル人が来日することになった。サンパウロの領事館はビザを求める人々で朝から長蛇の列となって、グアリューリョス国際空港は訪日就労者と見送りの家族で埋め尽くされた。その後日本の景気が悪化する中でも訪日就労者の数は順調に増加し、2007年末には31万3771人に至った。

 しかし、こうした状況は2008年に発生したリーマンショックによって一変した。多くのブラジル人就労者が失業してブラジルに帰国し、2009年と2010年に在日ブラジル人の数は8万人減少した。その後も在日ブラジル人の減少は続き、2015年末には17万3437人となった。

 そんな中2014年末ころの日本では少子高齢化の進行、東日本大震災の復興需要、オリンピックに向けた建設需要などによる人手不足が顕在化するようになった。人手不足によって牛丼屋が深夜営業できなくなったというニュースや、いくつかの企業がパートを正規従業員にするというニュースが流れた。また、それまで1バレル100ドル程度だった石油価格が急落し、2015年には一時20ドル台となった。同時に商品価格も低下してブラジルの景気は悪化した。こうした背景事情もあって、2015年の第一四半期はリーマンショック以降ではじめて訪日ブラジル人の数が帰伯ブラジル人の数を上回ることとなった。2015年全体では在日ブラジル人の数は若干減少することになったものの、翌2016年には増加に転じ、毎年約1万人増加している。2018年末の在日ブラジル人の数は20万1865人に及び、これ以外にブラジルと日本の二重国籍者が約5万人暮らしている。

 2019年は米中貿易戦争などのあおりもあって、訪日就労者数の増加ペースは前年に比べて低下した。それでも2019年末の在日ブラジル人数は21万1677人と9815人の増加であった。しかし、2020年年初からの新型コロナウィルスの影響で、在日ブラジル人数は再び減少に転じている。

2023年2月2日更新

Yasuyuki Nagai
Advogado japonês em Nagoya