在日ブラジル人の推移

 以下は法務省の統計から抜粋した1985年から2021年末までの在日ブラジル人の推移である。 

在日ブラジル人数 増減
1985 2000  
1986 2135 135
1987 2250 115
1988 4159 1909
1989 14528 10369
1990 56429 41901
1991 119333 62904
1992 147803 28470
1993 154650 6847
1994 159619 4969
1995 176440 16810
1996 201795 25355
1997 233254 31459
1998 222217 -11037
1999 224299 2082
2000 254394 30095
2001 265962 11568
2002 268332 2370
2003 274700 6068
2004 286557 11857
2005 302080 15523
2006 312979 10899
2007 313771 792
2008 309448 -4323
2009 264649 -44799
2010 228702 -35947
2011 209265 -19437
2012 190609 -18656
2013 181317 -9292
2014 175410 -5907
2015 173437 -1973
2016 180923 7486
2017 191362 10439
2018 201865 11865
2019 21万1677 9815
2020 20万8538 -3139
2021 20万4879 -3659

 この表の起点である1985年はちょうどブラジルが移民受入国から移民送出国に転換した時期にあたる。サンパウロのグアリューリョス国際空港もこの年に開港した。当時の在日ブラジル人はわずか2000人ほどで、領事館の職員、留学生、企業の駐在員及びその家族によって構成されていた。その後、バブルに向かって日本の景気が過熱し、企業の採用担当者は南米の日本人移民に対しても採用活動を行った。その結果ブラジルに暮らす日本国籍保有者が日本に帰国して就労する例が増加した。ブラジルの側は軍政時代の末期で、徐々に治安は悪化し、経済の状況も良くなかった。当初は日本に来るブラジル人は就労のために日本に帰国した日本人移民の配偶者が中心であったものの、やがてブラジル国籍しか持っていないブラジル生まれの日系2世や3世も先に帰国就労した日本国籍保有者の誘いを受けて来日就労するようになった。こうしたブラジル国籍者に対しては親族訪問を名目にした法務大臣の特例ビザが発給された。こうして在日ブラジル人の数は1989年末までに1万4528人まで増加した。

 1990年には親族訪問を目的とした特例ビザを制度化した「定住者」の在留資格が創設された。この時期のブラジルは年率3000パーセント近いハイパーインフレになった。インフレを沈静化するために預金封鎖なども行われ、多くの企業が倒産し、経済は最悪の状況であった。その結果1990年と翌1991年の2年間でおよそ10万人のブラジル人が来日することになった。サンパウロの領事館はビザを求める人々で朝から長蛇の列となって、グアリューリョス国際空港は訪日就労者と見送りの家族で埋め尽くされた。その後日本の景気が悪化する中でも訪日就労者の数は順調に増加し、2007年末には31万3771人に至った。

 しかし、こうした状況は2008年に発生したリーマンショックによって一変した。多くのブラジル人就労者が失業してブラジルに帰国し、2009年と2010年に在日ブラジル人の数は8万人減少した。その後も在日ブラジル人の減少は続き、2015年末には17万3437人となった。

 そんな中2014年末ころの日本では少子高齢化の進行、東日本大震災の復興需要、オリンピックに向けた建設需要などによる人手不足が顕在化するようになった。人手不足によって牛丼屋が深夜営業できなくなったというニュースや、いくつかの企業がパートを正規従業員にするというニュースが流れた。また、それまで1バレル100ドル程度だった石油価格が急落し、2015年には一時20ドル台となった。同時に商品価格も低下してブラジルの景気は悪化した。こうした背景事情もあって、2015年の第一四半期はリーマンショック以降ではじめて訪日ブラジル人の数が帰伯ブラジル人の数を上回ることとなった。2015年全体では在日ブラジル人の数は若干減少することになったものの、翌2016年には増加に転じ、毎年約1万人増加している。2018年末の在日ブラジル人の数は20万1865人に及び、これ以外にブラジルと日本の二重国籍者が約5万人暮らしている。

 2019年は米中貿易戦争などのあおりもあって、訪日就労者数の増加ペースは前年に比べて低下した。それでも2019年末の在日ブラジル人数は21万1677人と9815人の増加であった。しかし、2020年年初からの新型コロナウィルスの影響で、在日ブラジル人数は再び減少に転じている。

2023年2月2日更新

Yasuyuki NAGAI
Advogado japonês em Nagoya

ブラジル銀行名古屋出張所

用事があってブラジル銀行名古屋出張所でブラジルに送金をした。ついでに窓口の人にいろいろと教えてもらった。

ブラジル国内からブラジルの口座に送金する場合は送金先の情報として、銀行名、支店番号、口座番号、口座名義、CPFが必要だけど、日本からブラジルの口座に送金する場合はこれに加えて相手の住所及びRGも必要となる。

日本側で必要な送金手数料はオンラインでやった場合で700円。窓口だともう少し高い。また、受取先の口座がブラジル銀行以外の口座である場合には受取先の銀行が百数十レアルの受取手数料を徴収している。受取先の口座がブラジル銀行であればこれがかからない。

ブラジル銀行名古屋出張所は出張所なので口座開設すると東京支店の口座になる。ブラジル銀行東京支店の口座には日本国内の口座から通常の方法で振り込むことはできない。引き出しにはイオンやコンビニATMなどを使うことができ、時間帯によっては手数料無料。ブラジルからの送金を受け取る場合は送金元の銀行にかかわらず2500円の受取手数料がかかる。口座を開設するとレアル、ドル、ユーロ、円の4種の通貨の口座が同時開設され、海外からの振り込みはドルかユーロに入る。これらのお金はその日の銀行のレートで移動できる。残高が1000ドル相当に満たない場合は月に100円の口座手数料がかかる。またレアルの定期預金金利は3パーセントくらいでブラジルの貯蓄口座(poupança)金利よりも大分低い。

ブラジルのブラジル銀行の口座管理に利用するアプリは東京支店の口座では使えない。ウェブサイトからネットバンキングは可能である。

Yasuyuki NAGAI
Advogado japonês em Nagoya

連邦最高裁判所による取調べを目的とした強制引致の禁止

ブラジル連邦最高裁判所は、2018年6月18日、6対5で取調べを目的とした強制引致(condução coercitiva)を禁じる判断を下した。強制引致というのは裁判所の令状に基づいて警察が刑事手続のために被疑者又は被告人を強制連行する処分である(STF proíbe condução coercitiva de réus e investigados para depoimento)。1941年ブラジル刑事訴訟法第260条は次のように定めている。

Art. 260. Se o acusado não atender à intimação para o interrogatório, reconhecimento ou qualquer outro ato que, sem ele, não possa ser realizado, a autoridade poderá mandar conduzi-lo à sua presença.
犯罪の嫌疑をかけられた者が取調べ、人定又は本人がいなければ行うことができないその他の処分のためになされた召喚に応じない場合、司法官憲はその出席のための連行を命じることができる。
Parágrafo único. O mandado conterá, além da ordem de condução, os requisitos mencionados no art. 352, no que Ihe for aplicável.
補項 令状には引致命令のほか、第352条が求める事項のうち記載可能な事項を含む。
***
Art. 352. O mandado de citação indicará:
第352条 召喚令状は以下を明示する。
I – o nome do juiz;
一号 裁判官名。
II – o nome do querelante nas ações iniciadas por queixa;
二号 その申立てによって起訴がなされた告発人の名前。
III – o nome do réu, ou, se for desconhecido, os seus sinais característicos;
三号 被告人の名前。氏名不詳の場合はその特定の手掛り。
IV – a residência do réu, se for conhecida;
四号 判明している場合は被告人の住居。
V – o fim para que é feita a citação;
五号 召喚の目的。
VI – o juízo e o lugar, o dia e a hora em que o réu deverá comparecer;
六号 被告人が出頭すべき日時、裁判所及びその場所。
VII – a subscrição do escrivão e a rubrica do juiz.
七号 書記官の署名及び裁判官の略式署名。

今回の判断に先立って、2017年12月19日、連邦最高裁判所のジルマール・メンデス判事によって取調べを目的とした強制引致を禁じる仮処分が出されていた(Gilmar Mendes decide proibir a condução coercitiva para interrogatórios)。この手法は2014年に始まった汚職捜査ラバジャット作戦で多用されていて、連邦検察庁によればメンデス判事の仮処分までにラバジャット作戦で強制引致が行われた回数は実に222回に及ぶ。

ラバジャット作戦で行われた一連の強制引致の中でも2016年3月4日のルーラ元大統領に対する強制引致は大きな注目を集めた。この日の朝6時、強制引致令状を携えた連邦警察はサンベルナードカンポ市にあるルーラ元大統領の自宅を急襲し、 元大統領をコンゴーニャス空港の大統領特別室に引致して取調べを行った。引致される際に逮捕を恐れた大統領が

「クリチバの日本人は連れて来なかったのか?(Não trouxeram o japonês de Curitiba?)」

と述べて、多くの政治家を逮捕して国民的英雄として人気が爆発し、同年2月のカーニバルの時期にサンパウロで最も多くのマスクが売られ、オリンダのカーニバルではモーロ判事と並んで巨大な人形も作られたクリチバの連邦警察官ニュートン・イシイ氏に言及した場面はラバジャットを描いた映画「連邦警察 法は全ての人のために」でも取り上げられて強烈な印象を与えた。

連邦最高裁判所の審理はルーラ元大統領が所属する労働党(PT)とブラジル弁護士会(OAB)によって申し立てられた2つの違憲訴訟に基づいて行われた。

違憲訴訟の理由であり、今回の判断において判事たちも言及したように、ブラジル憲法第5条六三号の規定は黙秘権の保障を前提としている。

LXIII – o preso será informado de seus direitos, entre os quais o de permanecer calado, sendo-lhe assegurada a assistência da família e de advogado;
六三号 被拘禁者は黙秘権を含む権利の告知を受け、家族及び弁護人による援助が保障される。

確かに被拘禁者の黙秘権が保障されているにも関わらず本人がいなければ取調べができないとして強制引致が認められていたのは日本の取調べ受忍義務に関する議論にも通じる論理矛盾で、その意味でも今回の連邦最高裁判所の判断は興味深い。

Yasuyuki NAGAI
Advogado japonês em Nagoya